コロナ禍で加速した世界のキャッシュレスキャンペーン— 各国の中小企業支援事情まとめ

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、日本では各自治体がPayPayなどのコード決済事業者と連携し、最大25〜30%ものポイント還元キャンペーンを実施しました。接触機会の削減と地域経済の活性化を同時に狙ったこの取り組みは、実は世界でも広く見られます。国ごとに異なるアプローチで中小事業者のキャッシュレス化を後押しした、世界5か国のキャンペーン事情をまとめました。

目次

目次

🇯🇵 日本|自治体×コード決済のポイント還元

日本のキャッシュレスキャンペーンは、国と自治体の二段構えで展開されました。経済産業省は2019年10月の消費税増税に合わせ「キャッシュレス・消費者還元事業」を実施。中小・小規模事業者での決済に最大5%のポイントを還元し、2020年6月の終了時点で加盟店登録数は約115万店に達しました。これは当初目標を大きく上回る結果で、期間中の決済総額は約11.7兆円、ポイント還元額は約4,870億円に上ります。

コロナ禍に入ってからは、各自治体がPayPay・d払い・au PAY・楽天Payなどと個別に協定を結んだ「自治体キャンペーン」が全国各地で実施されました。東京・新宿区では「がんばろう!新宿応援キャンペーン」として25%還元(上限1万円相当)を2021年9月と2022年1月に実施。1月のキャンペーンは終了期限前に還元上限に到達し早期終了するほどの盛況となりました。

📌 施策の特徴

消費者へのインセンティブ(ポイント還元)と事業者支援(端末導入補助・手数料補填)を組み合わせた「需要と供給の両面支援」が特徴。事業終了後も参加店の約9割がキャッシュレス決済を継続する意向を示し、習慣の定着に成功しました。

🇰🇷 韓国(ソウル市)|手数料ゼロのQR決済「ZeroPay」

ソウル市が主導する「ZeroPay(ゼロペイ)」は、小規模事業者の決済手数料負担をゼロにすることを目的としたQRコード決済サービスです。消費者がスマートフォンの銀行アプリでQRコードをスキャンすると、加盟店口座へ直接入金される仕組みで、クレジットカードのような中間コストがかかりません。政府・ソウル市・銀行・民間決済会社が協力して運営しており、現在200万以上の事業者に導入されています。

コロナ禍ではQRコードが接触確認(コンタクトトレーシング)にも活用されたことで、社会全体にQR決済の利用習慣が急速に広まりました。現在はAlipay+との提携により、中国・香港・タイ・マレーシアなど複数の国・地域のウォレットアプリからも利用可能となり、インバウンド需要の取り込みにも貢献しています。

📌 施策の特徴

消費者への直接還元ではなく、「加盟店の手数料コストをゼロにする」という事業者側の構造的な負担軽減に特化した点が独自性。自治体(ソウル市)が旗振り役を担い、民間金融機関と共同運営しています。

🇲🇾 マレーシア|政府が国民のeウォレットにクレジットを直接配布

マレーシアでは、コロナ禍の経済対策として政府がeウォレットに直接クレジットを付与する手法を採用しました。2020年6月の復興パッケージ「PENJANA」を皮切りに、「ePenjana」「eBelia」「ePemula」などシリーズ化。2023年には「eMADANI」プログラムとして10億リンギット(約320億円)の予算が確保されました。

対象は年収10万リンギット以下の21歳以上の国民最大1,000万人で、一人あたりRM100(約3,200円)のeウォレットクレジットが付与されました。Touch ‘n Go eWallet・ShopeePay・MAE・Setelの4社が参加し、実店舗のDuitNow QR加盟店での利用に限定することで、中小の実店舗への消費誘導を意識した設計となっています。2020年以降のシリーズ全体では、20億リンギット以上が6つの国家eウォレット補助スキームを通じて配布されました。

📌 施策の特徴

「現金を振り込む」のではなく「eウォレットでしか使えないクレジットを付与する」ことで、初めてeウォレットを使う国民を数百万単位で獲得。デジタル決済を強制体験させることで、習慣化を狙った点が独自の手法です。

🇸🇬 シンガポール|1980年代から続く国策インフラ整備モデル

シンガポールは1980年代にすでに政府主導のキャッシュレス化を推進しており、世界でも最も早い事例の一つです。1985年にはEFTPOS(デビットカード決済)の試験運用として1万人・39の小売店が参加するパイロット事業が実施されました。また政府は所得税・公共料金・交通違反罰金などの現金窓口を段階的に廃止し、GIROやデジタル決済への移行を強制することで普及を加速させました。

コロナ禍ではこの成熟したインフラが活き、非接触決済や政府給付金のデジタル振り込みが迅速に対応できました。シンガポールの経験は「インセンティブ」より「インフラ整備と現金選択肢の削減」によってキャッシュレス化を定着させるアプローチとして、東南アジア各国の参考モデルになっています。

📌 施策の特徴

直接的なキャンペーンよりも「現金で払える窓口を減らす」「公共料金・税金をデジタルのみ対応にする」という制度面での強制移行が中心。長期的な視点で基盤を作ったことが、コロナ禍での迅速対応につながりました。

🇮🇳 インド|デジタル・インディアと廃貨政策でUPI普及を加速

インドのキャッシュレス化は、モディ首相による2つの大きな政策が出発点です。2015年スタートの「デジタル・インディア」プログラムは「顔のない・紙のない・現金のない社会」を国家ビジョンに掲げ、デジタルインフラの整備と行政サービスのオンライン化を推進しました。続く2016年11月には、500ルピー・1,000ルピー紙幣の突然の廃止(デノミ)が断行され、国民は否応なくデジタル決済へ移行することを余儀なくされました。

この結果、UPI(統一決済インターフェース)を活用したQRコード決済が急速に普及。コロナ禍ではこのインフラを活かし、2億4,000万人以上の国民への給付金がデジタルで一斉配布されました。比較されることの多いフィリピンでは同時期に1,800万人への給付に現金封筒配布を余儀なくされており、デジタル基盤の有無による差が世界的に注目されました。

📌 施策の特徴

廃貨という強制的な手段で一気にキャッシュレス化を進めた劇的な事例。批判も多かった一方、UPIという世界最大規模のリアルタイム決済基盤の普及を加速させ、長期的に大きな成果を生みました。

📊 各国キャッシュレスキャンペーン比較まとめ

国・地域主な施策主な対象アプローチ
🇯🇵 日本自治体×コード決済 ポイント還元(最大25〜30%)消費者・中小店舗消費者インセンティブ+端末導入補助
🇰🇷 韓国(ソウル市)ZeroPay:QR決済の手数料をゼロ化小規模事業者事業者コスト削減(構造改革型)
🇲🇾 マレーシアeMADANI等:eウォレットクレジット直接配布国民・実店舗加盟店電子マネーの強制体験促進
🇸🇬 シンガポールEFTPOS普及・政府窓口の現金廃止社会全体インフラ整備+現金選択肢の削減
🇮🇳 インドデジタル・インディア+廃貨政策→UPI普及国民全体政策強制+デジタルインフラ構築

まとめ

コロナ禍を契機としたキャッシュレス推進は、世界共通のテーマでした。しかしそのアプローチは国によって大きく異なります。日本の「ポイント還元で消費者を動かす」方式、韓国の「手数料をゼロにして事業者を動かす」方式、マレーシアの「電子マネーを直接配って体験させる」方式——それぞれが異なる課題意識を出発点にしています。

共通しているのは、「中小事業者の負担軽減」と「非接触・衛生面での安全性確保」を両立させようとした点です。キャッシュレス化は単なるテクノロジーの普及ではなく、行政・金融・民間が連携した社会インフラの転換であることが、各国の事例から改めて見えてきます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

Fintech業界で働きながら、社内でAI活用推進を担当しています。
専門知識と実務経験を活かし、海外のFintech最新事情、AIテクノロジーの進化と実務応用、ASI(人工超知能)開発の現状と将来展望、そしてこれらが私たちの生活や仕事にもたらす変化について情報発信しています。

目次