市役所とスマホ決済アプリは、いつ手を組んだのか

Fintech企業に勤めながら、社内でAI推進も担当しているMasaです。横須賀から、世界と日本の決済事情を追いかけています。

先日、今月神奈川全土でかながわトクトクキャンペーン!『かなトク!』が開催され、時期が少し遅れてから横須賀市でも自治体キャンペーンが開催されます。

気づけば、こういう自治体の還元キャンペーンは全国どこでも当たり前になっています。

でも、これはいつ、どうやって始まったのか。なぜ「市役所」と「スマホ決済アプリ」が手を組むようになったのか。今回はその”発火点”を、時系列で整理してみます。

目次

発火点は2018年末の「100億円あげちゃうキャンペーン」

QRコード決済が一気に世間の話題になったのは、2018年12月。PayPayの「100億円あげちゃうキャンペーン」でした。

20%還元に加えて抽選で全額還元という大盤振る舞いに利用者が殺到し、当初4か月予定だった原資100億円を、わずか10日間で使い切るという伝説的な幕引きになりました。

この「現金がそのまま増える」体験が、それまでキャッシュレスに無関心だった層を一気に動かしました。大規模還元キャンペーンは集客装置になる——その方程式が、ここで証明されたわけです。

国が背中を押した「キャッシュレス・ポイント還元事業」

次の転機は2019年10月。消費税が8%から10%へ引き上げられたタイミングで、経済産業省が「キャッシュレス・ポイント還元事業(消費者還元事業)」をスタートさせます。2020年6月までの9か月間、中小・小規模店でキャッシュレス決済をすると最大5%が還元される、という国家プロジェクトでした。

狙いは2つ。増税の負担感をやわらげる「消費の下支え」と、海外に比べて遅れていた「キャッシュレス比率の底上げ」です。

この施策で、街の小さなお店にまで決済用のQRコードがズラリと並ぶことになりました。お店側の受け入れ環境と、消費者の慣れが同時に整った。これが大きなポイントです。

ここがミソ。この事業の主体はあくまで「国」で、まだ自治体が主役ではありません。とはいえ全国の中小店舗にQR決済が普及したことが、次の自治体キャンペーンの土台になりました。

2020年7月、ついに”自治体版”が誕生する

そして本題です。国の還元事業が2020年6月末に終了した、その翌月。PayPayが「あなたのまちを応援プロジェクト」を立ち上げ、自治体と決済事業者が直接タッグを組むスタイルのキャンペーンが本格的に始まりました。いま私たちが見ている”自治体キャンペーン”の原型です。

タイミングは偶然ではありません。2020年は、コロナ禍で地域経済が冷え込んだ時期。落ち込んだ地元の消費をどう立て直すか——その答えの一つとして、QRコード決済の還元キャンペーンが選ばれたのだと思います。

なぜ自治体はQR決済を選んだのか

「地域経済を回す」だけなら、昔ながらのプレミアム付商品券という手もあります。でも紙の商品券は、印刷・郵送・換金処理など事務コストが膨大です。これに対して、QRコード決済キャンペーンには自治体にとって嬉しいメリットが揃っていました。

メリット中身
事務がラク紙の発行・換金が不要。仕組みは決済事業者側が用意してくれる
対象を地元店に絞れる中小・小規模の加盟店に限定でき、大手に流れにくい
即効性がある高い還元率(10〜30%)で、短期間に消費を喚起できる
DXも前進する地元店のキャッシュレス対応・デジタル化が進む

仕組みとしては、自治体がキャンペーンを主催し、決済事業者がその運営を業務委託として請け負う形。還元ポイント分の原資は自治体の予算=税金から出ているので、「ばらまき」ではなく地域振興策という位置づけです。

そして現在地へ

2020年7月のスタートから、このプロジェクトは雪だるま式に拡大しました。一度やって好評だった自治体がリピートし、横展開で全国へ。参加自治体は約500、累計キャンペーン数は1,100超、対象は46都道府県にまで広がっているとされています。もはや地方財政の”定番ツール”です。

PayPayの独走に対して、d払い・au PAY・楽天ペイといった他社も自治体連携に参入しました。いまや「うちの市は今月どこが還元やってる?」と探すのが、地方在住者の月初の楽しみになっているくらいです。

私が感じること

仕事柄、世界の決済事情を追っていると、日本のこの「自治体×QR決済」という形はかなりユニークだと感じます。中央政府が一律に配るのではなく、それぞれの自治体が地元の事情に合わせて還元率や対象を設計できる。地域に主導権がある仕組みです。

一方で、気になることもあります。スマホとアプリ操作が前提なので、高齢者層には届きにくい。同じ税金を原資にしているのに、デジタルに慣れた人ほど得をする構造になっていないか——という点です。

キャンペーンが地域の消費を温める効果は、確かにあると思います。あとは「誰一人取り残さない」設計まで踏み込めるかどうか。そこが、これからの自治体キャンペーンの分かれ目になる気がしています。

まとめ

自治体キャンペーンは、ある日突然降ってきたものではありません。ざっくり言うと、3つのステップで生まれています。

STEP
還元が集客になると証明

2018年末のPayPay100億円祭。20%還元の体験が、それまでキャッシュレスに無関心だった層を一気に動かしました。

STEP
店と消費者にQRが普及

2019〜2020年の国の還元事業で、街の中小店と消費者の両方にQR決済が浸透しました。

STEP
“おらが町”の振興策に進化

2020年7月の自治体プロジェクトで、地域ごとの還元キャンペーンが定番の振興策として定着しました。

民間の大規模還元 → 国の政策 → 自治体への落とし込み、というきれいなバトンリレーの結果なんですね。次にお住まいの町で還元キャンペーンを見かけたら、その裏にあるこの3段階を思い出してみてください。ちょっとだけ、お得感が深まるかもしれません。

次回は、コロナ禍で海外の自治体や政府がどんな給付・還元策をとったのか、各国の中小企業支援事情と比べてみます。

※本記事は公開情報をもとにした解説です。各キャンペーンの還元率・期間・対象店舗は自治体ごとに異なるため、最新情報は各公式ページでご確認ください。

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この記事を書いた人

Fintech業界で働きながら、社内でAI活用推進を担当しています。
専門知識と実務経験を活かし、海外のFintech最新事情、AIテクノロジーの進化と実務応用、ASI(人工超知能)開発の現状と将来展望、そしてこれらが私たちの生活や仕事にもたらす変化について情報発信しています。

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