CtoCコンテンツ販売の拡大とカード決済の構造変化 ―「個人の与信」から「商材リスクの与信」へ

目次

アダルト系排除に見るカードブランドの構造的シフト

VISAやMastercardによるアダルトコンテンツ決済の排除は、単発の事件ではなく構造的な流れとして進んでいる。象徴的なのが、日本発のJCBを除く米国系4ブランド(Amex、Diners、Visa、Mastercard)がアダルト決済で使えなくなる事例が国内でも相次いでいる現状だ。

その背景には、海外での訴訟リスクの高まりがある。米国での大規模訴訟をきっかけに、カード会社がアダルト関連取引の処理プロセスに関与していたことが問題視され、各ブランドはブランド保護を理由に取扱いを慎重化させてきた。日本国内でもVisaの担当者が「ブランドを守るために使えなくすることも必要」とコメントしており、カードブランド側は「個別キーワードを指定して排除指示を出してはいない」としつつも、レピュテーションリスクを理由とした事実上の排除が進んでいる構図がうかがえる。

これは対象がアダルトに限られた話ではない。訴訟・規制リスクが高まりやすい商材であれば、同様のロジックで取扱い停止が広がる可能性がある。カードブランドは「ルールで明文禁止する」のではなく「リスクが高まった商材を個別に遮断する」という後出し型の対応を取りやすく、事業者側からは予見しにくいという特徴がある。

CtoC化の拡大とプラットフォームの役割

一方で、これまで法人が個人向けに販売する形が主流だった商材流通は、BrainやLive Pocketのように個人インフルエンサーが直接コンテンツを販売するCtoC型へと広がっている。ここで重要なのは、個人がカードブランドと直接加盟店契約を結んでいるわけではないという点だ。

国内の決済代行会社(PSP)の多くは「包括代理店型」と呼ばれる契約形態を取っている。これはPSPがアクワイアラ(カード会社側)から包括的に権限を授けられ、加盟店の契約手続きや審査、管理を一括して代行する仕組みだ。マスターカードの定義では、この加盟店契約まで代行する形態は「Payment Facilitator」と呼ばれ、事業者(個人)はPSPとのみ契約すればよい。

つまり実務上は、プラットフォーム(Brainなど)が一つの法人として包括加盟店契約をカード会社・PSPと結び、個人の出品者はその傘下のサブ加盟店として扱われている。個人の信用力をカード会社が直接審査するのではなく、プラットフォーム側がコンテンツの事前審査・モニタリング・規約違反時の停止権限を持つことで、カード会社に対するリスクを遮断する構造になっている。

具体的な対策としては、出品コンテンツの事前審査や禁止キーワードフィルタの実装、規約違反時のアカウント停止・売上保留権限の明記、クレジットカード以外の決済手段(後払い、キャリア決済、一部では暗号資産)への代替などが挙げられる。

海外型モデルとの比較―Stripe Connectの場合

海外発のマーケットプレイス型決済サービスであるStripe Connectは、異なるアプローチを取っている。Stripeは個人や中小事業者を「Connected Account」として管理し、決済義務そのものをプラットフォームからStripe側に移す。カードデータのトークン化によるPCI対応、本人確認(KYC)、制裁リストとの照合、各国の決済ライセンスの活用などを一括して引き受ける仕組みだ。

実務フローとしては、プラットフォーム側がオンボーディング時にKYC・KYB情報を収集してStripeに渡し、Stripeがその情報をもとに身分証明書の確認や、詐欺・マネーロンダリング関与者データベースとの照合などのチェックを行う。プラットフォームは連結アカウントの審査状況を継続的に監視し、Stripeからの追加情報要求に対応する責任を負う。

ここで見えてくるのは、Stripeの仕組みも「個人の与信力(収入や資産)」を評価しているわけではないという点だ。中心にあるのは本人確認(なりすましでないか)と、制裁・詐欺リストとの照合という”本人性”の確認である。

与信モデルの本質的な変化

日本型のPSP包括代理店モデルと、Stripe Connectのようなグローバル型モデルは、契約構造や責任の所在は異なるものの、共通する重要な特徴がある。どちらのモデルも、従来型の「個人の信用力評価」をほとんど行っていないという点だ。

見られているのは主に二つの要素である。一つは本人性(なりすまし・詐欺ではないか)、もう一つは取扱商材のブランドリスク(コンプライアンス上の懸念がある業種・コンテンツでないか)だ。CtoC化によって与信モデルが大きく変わったというよりも、与信の対象そのものが「個人の信用力」から「コンテンツ・商材のコンプライアンスリスク」へとシフトしたと捉えるのが実態に近い。

加えて、カードブランド側には包括代理店配下のサブ加盟店を監視する仕組みがある。違反を繰り返した事業者は高リスク事業者リストに登録され、他のPSP経由でも再加盟が困難になることがある。これはCtoCプラットフォームにとって非対称なリスクを生む。一人の出品者の規約違反が、プラットフォーム全体の決済停止につながりかねないという構造だ。これこそが、BrainのようなCtoCプラットフォームが出品時の事前審査やキーワードフィルタを厳格化する最大の理由であり、本人確認に強いStripe型のモデルであっても、商材リスクの管理責任が最終的にプラットフォーム側に残る点では変わらない。

まとめ

クレジットカードは元来、法人加盟店を前提とした与信・契約モデルで構築されてきた。CtoC型の商流が拡大する中でも、その基本構造(個人が直接ブランドと契約しない仕組み)は大きく変わっていない。変わったのは、リスク管理の重心が「個人の信用力」から「コンテンツ・商材のコンプライアンスリスク」へ移ったことであり、その結果、プラットフォーム自身がコンテンツ審査の最終防波堤としての役割を負うようになっている。今後、商材NG系の拡大が続く中で、CtoCプラットフォームの審査体制や代替決済手段の確保は、ビジネス継続の重要な論点になっていくと考えられる。


出典

  • ニコニコ大百科「クレジットカード国際ブランドによる表現に対する要請への対応とは」 https://dic.nicovideo.jp/a/%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%82%B8%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%89%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E8%A1%A8%E7%8F%BE%E3%81%AB%E5%AF%BE%E3%81%99%E3%82%8B%E8%A6%81%E8%AB%8B%E3%81%B8%E3%81%AE%E5%AF%BE%E5%BF%9C
  • FRIDAYデジタル「アダルト系サイトで相次ぐ決済不可……危惧される大手カード会社の『ネットコンテンツ支配』の中身」 https://friday.kodansha.co.jp/article/381280?page=1
  • ITmedia NEWS「クレカの表現規制、真犯人は誰か 見えてきた『構造的原因』を解説する」 https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2503/07/news144.html
  • BILLMONT LIMITED「アダルト系サイトで決済が止まった場合の解決方法」 https://billmont.com/blog-jp/adult-site-payment-solutions/
  • CNN.co.jp「一部のアダルトサイト利用の決済禁止、米ビザカード」 https://www.cnn.co.jp/business/35164442.html
  • スキルハックス「知識共有プラットフォーム『Brain』 ―よくある質問―」 https://skill-hacks.co.jp/brain-questions/
  • 経済産業省「決済代行(PSP)について」(2022年9月13日資料5) https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/credit_card_payment/pdf/002_05_00.pdf
  • イーディフェンダーズ株式会社「PSPとは?決済代行会社の仕組みと導入メリットを解説」 https://note.com/edefenders/n/nf9e7194ce2d6
  • 経済産業省「改正割賦販売法について」(2018年4月資料15) https://www.caa.go.jp/policies/policy/local_cooperation/local_consumer_administration/meeting_001/pdf/meeting_001_180419_0017.pdf
  • 企業法務ナビ「キャッシュレス決済の法律構成 クレジットカード決済(後編)」 https://www.corporate-legal.jp/news/4492
  • ペイジェント「Payment Service Provider(PSP)とは?決済代行の役割と仕組み」 https://www.paygent.co.jp/column/netshop_opening/what_psp/
  • VeriTrans Inc.「Payment Service Provider(PSP)について」(2014年10月30日資料3) https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shomu_ryutsu/kappu_hambai/pdf/003_03_00.pdf
  • JPCC「PSP(決済サービスプロバイダ)とは?決済代行との違いと選び方を徹底解説【2026年版】」 https://jpcc.inc/column/what-is-psp
  • Stripe「本人および法人確認」 https://support.stripe.com/topics/verification
  • Stripe「Stripe Connect: Online Marketplace Payments Platform」 https://stripe.com/en-be/connect/features
  • Stripe「Stripe Connect | Marketplace Payment Processing」 https://stripe.com/ja-us/connect/payouts
  • Stripe「Financial Accounts for platforms connected account onboarding guide」 https://docs.stripe.com/financial-accounts/connect/examples/onboarding-guide
  • Stripe「Identity verification for connected accounts」 https://docs.stripe.com/connect/identity-verification
  • Stripe「Handle verification with the API」 https://docs.stripe.com/connect/handling-api-verification
  • Stripe「Merchant onboarding: A step-by-step guide」 https://stripe.com/resources/more/merchant-onboarding-explained
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

Fintech業界で働きながら、社内でAI活用推進を担当しています。
専門知識と実務経験を活かし、海外のFintech最新事情、AIテクノロジーの進化と実務応用、ASI(人工超知能)開発の現状と将来展望、そしてこれらが私たちの生活や仕事にもたらす変化について情報発信しています。

目次