「ステーブルコイン決済は手数料が安い」。今回のニュースは、ほぼこの一行で報じられた。0.98%という数字が独り歩きしている。
だが決済の現場から見ると、この数字を既存のコード決済やカード決済の料率と並べる行為そのものが間違っている。比べているものが、同じ商品ではないからだ。
安いのではない。含まれているものが違う。そして含まれていない分は、加盟店がどこかで払うことになる。
何が起きたか
株式会社ネットスターズは2026年7月13日、マルチキャッシュレス決済ソリューション「StarPay」の新サービスとして、店舗向けに複数のステーブルコイン決済に対応する「Stablecoin Pay」の提供と申込受付を開始した。手数料は0.98%(非課税)と明記されている。

リリースによれば、対応するステーブルコインはUSDC、USDT、JPYCの3種。対応ブロックチェーンはSolanaとPolygonで、Aptosは2026年夏以降の対応を予定する。対応ウォレットはMetaMaskで、Bitget Walletとim Tokenも夏以降の予定とされる。決済方式はCPM(QRコード顧客提示型)で、MPM(店舗提示型)は今後対応するとしている。
同社は2026年1月から2月にかけて羽田空港で、4月からは兵庫県姫路市のトレーディングカード専門店で、USDCによる決済のサービス実証を行っていた。今回はその知見をStarPay加盟店に展開する形になる。
ただし、決済実務者が最初に目を留めるべきは料率ではない。次の一文だ。加盟店は、外貨建てステーブルコインの決済であっても、商品の金額表示、売上管理、精算を日本円ベースで行える。リリースにはそう書かれている。
0.98%は「安い料率」ではなく、含まれているものが違う
カード決済の加盟店手数料が何の対価なのかを分解すると、決済処理の実行はそのごく一部でしかない。残りは、与信、不正利用が起きたときの補償の枠組み、チャージバックの処理、加盟店審査、ブランドルールの運用と監査に紐づいている。
加盟店は「決済を通すこと」に料率を払っているのではない。「決済が壊れたときに、誰かが処理する体制」にも払っている。
ステーブルコイン決済には、この後段がほぼ存在しない。オンチェーンの送金は、着金すれば完了する。あとから差し戻す主体がいない。だから安くできる。
つまり0.98%は、同じサービスを安く売っている数字ではない。バンドルされている中身が違う商品の価格だ。中身の違うものの単価を並べても、導入判断の材料にはならない。
「日本円ベースで管理できる」と書かれたとき、為替を引き受けているのは誰か
リリースは、加盟店が為替レートや暗号資産の管理を意識せずに済むと書いている。加盟店にとっては明確な利点だ。
ただし、加盟店が為替を意識しなくてよいということは、決済が発生した瞬間から加盟店の口座に円で着地するまでの間で、誰かが為替変動を引き受けているということでもある。そしてリリースには、その引受け主体も、レートをどの時点で決めるのかも書かれていない。
ここは実務上、料率よりはるかに重い。適用レートの決定時点が、決済時なのか、日次の締め時点なのか、精算時なのか。それが一段ずれるだけで、0.98%という料率は簡単に飲み込まれる。USDCやUSDTのようなドル建てコインを扱う以上、これは例外的なリスクではなく、毎日発生する通常業務の話だ。
加盟店契約を読む立場にいるなら、料率の交渉より先にこの条項を確認する。順序が逆になっている解説記事が多い。
CPMから始めた理由は、レジの前の数秒にある
CPMは顧客がコードを提示し、店側が読み取る方式だ。店舗は既に持っているスキャナで読める。追加端末が不要と書かれているのはこのためで、レジ側の改修を最小にできる。
一方で、この方式は顧客側のウォレット操作を前提にする。ブロックチェーン上の送金には、署名とネットワーク上の確認に時間がかかる。レジの前で数秒待たされる決済は、コンビニやスーパーの現場では致命的になりうる。
同じ7月、HashPortがKDDI・ローソンと締結した技術実証の合意では、検証項目に「決済所要時間」と「レジオペレーションの検討」が明示されている。別の座組みが、同じ週に、同じ場所を潰しにいっている。ステーブルコイン決済の当面の勝負どころが、コインでもチェーンでもなく、レジの前の数秒であることの傍証と考えられる。
取り消せない決済は、経理と税務でつまずく
リリースには、返品や返金の取扱いについての記載がない。
オンチェーンの送金は、実行後に加盟店側から一方的に取り消せない。返品が発生した場合、加盟店は受け取ったコインを送り返すことになる。これは決済の取消ではなく、新たな送金だ。
実務ではここが効く。売上の取消として処理できないものは、日次の締めでも、売上計上でも、消費税の処理でも、既存のフローに素直に乗らない。レジの担当者、経理、システムの三箇所を同時に触ることになる。導入の実際の壁は、料率でも技術でもなく、この一点だと考えている。
日本で普及の律速になるのは、加盟店側ではない
StarPayは年間2.1兆円の決済取扱高と、70万拠点の決済アクセスポイントを支えているとリリースは説明している。配る先は、既にある。だから日本で普及が止まるとしたら、その律速は加盟店側ではない。
対応ウォレットが現時点でMetaMaskのみである点が、それを端的に示している。コンビニで支払う客のうち、レジ前でMetaMaskを開ける人がどれだけいるか。数を考えれば答えは出ている。
可能性があるとすれば円建てのJPYCだ。円建てであれば、前述した為替の論点そのものが消える。ただしJPYCは、2026年7月にオンチェーン流通額が20億円を突破したと発表された段階にある。年間の決済取扱高と流通残高は性質の異なる数字だが、それでもStarPayの2.1兆円と並べると桁が三つ違う。当面、決済の主役にはならないと考えられる。
それでも、この二つの数字を並べる意味はある。決済インフラの側が先に整い、流通量が後から追いつく順序になっているということだからだ。逆の順序よりは、はるかに健全である。
自分が加盟店側にいたら、料率は見ない
自分が加盟店側にいたら、料率は見ない。契約書の三箇所だけを見る。
- 適用為替レートの決定時点。決済時か、締め時か、精算時か
- 精算サイクル。着金から入金までの日数と、その間の価格変動を誰が負うか
- 返品・返金時の取扱い。誰の名義で、どのレートで、いつ送り返すのか
この三つが埋まらないうちは、0.98%という数字に意味がない。逆に三つが明確なら、料率が多少高くても検討に値する。
決済事業者側の人間としては、既存決済との共食いを心配するより先に、社内の受け入れ体制を確認する。取消不能な決済を、カスタマーサポートと経理がさばけるのか。ここを飛ばして加盟店開拓に入ると、半年後に自社のオペレーションが詰まる。
社内でAI導入を進めている立場から、もう一つ付け加えたい。取り消せない決済ほど、実行前のチェックを自動化する価値が高い。決済の実行後に人間が確認して直せる世界と、直せない世界とでは、自動化を入れるべき場所が変わる。前者は事後の照合、後者は事前の検証だ。ステーブルコイン決済を扱うなら、投資すべきは後者になる。
取り消せることに、いくら払っているか
0.98%という数字が語っているのは、ステーブルコイン決済が安いということではない。決済から「取り消せること」を外すと、コストはここまで下がる、ということだ。
そこで問いが一つ残る。自社の決済において、取り消せることにいくら払っているのか。そして、その金額に見合うだけ、実際に取り消しているのか。
返品率も、チャージバック率も、不正利用の発生率も、たいていの事業者は数字を持っている。持っているのに、料率と並べて見たことがない。今回のニュースは、その二つを並べて見るいい機会になる。ステーブルコイン決済を導入するかどうかは、その計算を終えたあとの話だ。
